英仏百年戦争物語 3:英仏百年戦争へ

1.スコットランドの武人たちの死

1329年にロバート・ブルースが死去して、弱冠5歳の息子デイビッドが即位し、デイビッド2世と名乗ります。

更にエドワード3世にとって、朗報はこれだけではありませんでした。ロバート・ブルースの家臣の中でも戦闘経験を積んで、並外れた戦上手だったジェームズ・ダグラスが、戦死したのです。
主君ロバート・ブルースが死ぬ直前に自分の首を聖地エルサレムに運ぶように遺言を残していたので、その遺言を果たすべく、ダグラスは聖地へ向かいます。しかし、途中のフランドルでカスティリア王とグラナダ王の戦闘に参加して、その戦闘で部下と共に敢えなく討ち死にしてしまったのです。

2.転機となったスコットランド遠征

これによりエドワード3世は、スコットランドが弱体化しているものと考え、スコットランド王位継承資格を有するスコットランド貴族エドワード・ベイリアルに経済的支援を行って、このベイリアルにスコットランドへ遠征させます。
ちなみに、エドワード・ベイリアルは、ロバート・ブルースが即位する前の王だったジョン・ベイリアルの息子です。父親のジョンは、エドワード1世(3世の祖父)に徹底的に打ち破られて、王位を捨てた上に、ロンドン塔に幽閉されています。
そのため、息子ベイリアルの前半生は、悲劇の連続で、ロバート・ブルースがスコットランド王に即位した事で、彼の存在はほとんど歴史から消え去られていました。

しかし、エドワード・ベイリアルは、実は軍事的才能に恵まれた武将でした。ほとんど戦闘経験がないにも関わらず、この悲劇な境遇に育った47歳の男は、エドワード3世の支援を受けて、ベイリアル家復活の遠征に乗り出します。

何とか1500人の兵をイングランド領内でかき集めたベイリアルは、海路でスコットランドに向かいます。
これは、議会の反対を予想したエドワード3世が、議会側に知られないようにするために、ベイリアルに指示したためと言われています。

3.華麗な戦術のダプリン・ムーアの戦い

スコットランドに到着したベイリアルに対して、デイビッド王の側近は、2万とも3万とも言われる兵力をかき集めました。そして、アーン河の畔で両軍は対峙するのですが、その夜ベイリアルは、夜襲をかけて、敵に大打撃を与えます。

これにより、寡兵と侮っていたスコットランド軍も徹底的にベイリアルを打ち破る勢いで、いよいよ戦端が開かれることになります。ベイリアル軍1500人 VS スコットランド軍2万人の戦い、ダプリン・ムーアの戦いです。
ベイリアルは、スコットランド軍を峡谷に引きずり込みます。そして、そこで戦いが始まるのですが、ここで後世に残る戦術がベイリアルによって、披露されることになります。

ベイリアルは、500人の騎士を中央に配置して、左右に500人ずつの長弓兵を斜めに配置して、敵を包み込むように陣形を作ります。これは、ちょうど鶴翼の陣と同様の形で、左右の翼が弓隊になっています。

戦闘を開始すると、2万のスコットランド軍は、その兵力を活かして、突撃を敢行します。それがとても激しい攻撃だったらしく、ベイリアル軍は、崩壊寸前まで押されますが、ギリギリのところで持ち堪えます。そして、ベイリアル軍の左右の長弓兵が次から次へと放つ矢に、スコットランド兵は、みるみるうちに倒され、焦ったスコットランド軍側は、更なる部隊を繰り出して押し出そうとするのですが、それが今度は前後に味方の部隊が入り乱れて大混乱を引き起こし、収拾不能になってしまいます。
冷静なベイリアルは、徹底的に長弓兵に手を休まずに射撃を続けさせ、最後にはスコットランド軍の司令官も討ち死にし、スコットランドは大敗を喫します。

このダプリン・ムーアの戦いは、奇跡と言っても過言でないくらいのベイリアルの大勝利であり、スコットランドに大きな衝撃を与えます。
その後もベイリアルは戦闘を続けて順調に勝利するものの、部下の裏切りに合い、結局身一つでイングランドに戻り、エドワード3世に再度支援を求めます。

4.英仏百年戦争の勃発

これに応じたエドワード3世は、自ら兵を率いて北上し、デイビッドの家臣の指揮する軍を、ベイリアルの戦術を真似るかの如く、長弓兵を駆使して、ハリドン・ヒルの戦いで打ち破ります。このときは、イングランド軍1万に対して、スコットランド軍は1万5千もの兵力を持っていました。

このようなエドワード3世とベイリアルの共同戦線で、デイビッド2世は、遂にフランスに逃亡してしまいます。そして、それを受け入れたフランス王フィリップ6世は、エドワード3世に対して、イングランドがフランスに持っていた領土(アキテーヌ)の没収を宣言します。

これに応じるが如く、エドワード3世もフランス王フィリップ6世に宣戦布告。

これが、百年戦争の幕開けです。いよいよ100年に及ぶ戦争が両国の間で繰り広げられることになります。

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